銀行株は資産株になり得るか?
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高配当銘柄ランキングを見ると、銀行株がズラズラと並ぶことも多い。
銀行株の配当利回りは3-4%以上あるので、非常に魅力的に見える。
それでは資産株として、銀行株を買うのはアリかナシか?
結論から言うと、「買ってもよいが、株価が大底圏にある時のみ」。
というのも銀行株は、株価の下落リスクが大きいセクターになってしまったからだ。
銀行は公共性が高いディフェンシブ銘柄(だった)
銀行株は、かつてはディフェンシブ銘柄の一つだった。
しかし今や、銀行株も危ない業種になってしまった。
ディフェンシブ銘柄にも色々あるが、電力やガス会社などの公共性が高い企業は、国や地方自治体に守られている。
というのも電力会社やガス会社が倒産して、電力やガスが供給されなくなると、社会基盤が揺らいで国民生活に大きな支障が出る。
そのため公共料金は、電力会社がガス会社が倒産しないように、一定割合の利益が出るように定められている。
ただ電力会社やガス会社は、あくまでも株式会社だから、利益が出れば配当金を出すことになる。
そこで健保や損保などの機関投資家は、こういう公共性の高い企業の株を買って配当金を受け取る。
一方、銀行や信用金庫なども、経済で大きな働きを担っている。
企業に運営資金を融資し、経営資金を貸し付けている。
中小企業の多くは、銀行から金を借りて原材料を買ったり人を雇ったりして事業を行っている。
なので黒字経営であっても、銀行からの融資が途絶えると、倒産することもある。
そんな銀行業だから、国や地方自治体も銀行が倒産しないように、様々な収益源を作って守っていた。
アベノミクスが始まるまでは。
アベノミクスで銀行は儲かった?
アベノミクスによる「異次元の金融緩和」が始まったことで、銀行は常に逆風にさらされるようになった。
異次元の金融緩和というのは、具体的に言うと「市中に出回っている日本国債」や「日本株」を、日銀が買いまくることだった。
国債や株式を日銀が買うことによって、日本国内に資金をジャブジャブ供給すれば、インフレが起こって日本の景気が良くなる…という理屈だったらしい。
そして日銀総裁の黒田氏は、2年以内にインフレ率を2%にすると豪語した。
そして2014年度のメガバンク(三菱UFJ、三井住友、みずほ銀行)の利益は、史上最高益を記録した。
ところがその後、銀行が利益を伸ばしたかというと、さにあらずで、こうなった。
3メガバンクの収益比較
三菱UFJ銀行 | 三井住友銀行 | みずほ銀行 | |
---|---|---|---|
2014年3月期 | 9,848億円 | 8,353億円(過去最高益) | 6,884億円(過去最高益) |
2015年3月期 | 1兆0337億円(最高益) | 7,536億円 | 6,119億円 |
2017年3月期 | 9,264億円 | 7,065億円 | 6,035億円 |
2019年3月期 | 8,726億円 | 7,268億円 | 965億円(特別損失7,000億円計上) |
アベノミクスの金融緩和で、銀行の収益源が途絶
黒田日銀総裁は、2013年春、異次元の金融緩和によってデフレを脱却し、2年以内にインフレ率を2%まで引き上げると豪語した。
ところが実際にそうなったかと言えば、7年経っても全くインフレ率は高まらなかった。
というのもこの理屈は、経済学的に言えば矛盾だらけの理屈で、原因と結果を逆さまにした謎理論であった。
もともと市中に資金をジャブジャブ供給して、インフレを起こすというのは、あまり良いインフレではない。
インフレというのは、経済学的には需要に供給が追いつかずに、モノ不足(供給不足)だから起こるモノなのだ。
一方、2010年代の日本は、モノ余り(供給過剰)の状況だから、モノが高く売れずに安売りされる。
造ったモノやサービスが高く売れないので、企業は給料を増やせず、家計は収入が増えないので消費が増えない。
消費が増えないとインフレにはならないので、堂々巡りになっていて、経済が停滞する。
これがいわゆる「デフレスパイラル」というやつだ。
そこで日銀は、日本国債や株を買って資金供給しようとしたが、国債や株などの金融資産を持っている家なんて全世帯の10%前後くらいしかいない。
しかも国債や株を持っていたとしても、それを売ってしまったらそれっきりで、それ以降は何の恩恵も受けられない。
それは国債を大量に持っていた銀行も同じ事で、日銀が手持ちの国債を高く買ってくれるので売って利益を手にしたのは良いが、国債価格が高くなりすぎて、国債を買っても利益が出なくなった。
そうして日本の銀行は、国債運用という収益源を失ったわけだ。
これによって、地方銀行が大ダメージを受けた。
マイナス金利政策が、地方銀行にトドメ
日銀が国債を高値で買いあさったため、長期金利はほぼゼロまで低下した。
その結果、ドル円の為替レートは1ドル=100円の水準を大きく上まわり、1ドル=120円にまで上昇した。
FXトレードの理屈では、為替レートというのは「実質金利の差」に大きな相関関係がある。
そして実質金利が高い方の通貨が買われる。
実質金利というのは、「国の決める政策金利(利子率)-インフレ率」で計算する。
日本の場合、政策金利がほぼゼロで、インフレ率もゼロだから、実質金利はゼロになった。
一方、アメリカでは、政策金利が3%くらいで、インフレ率が2%なので実質金利は1%くらいになった。
そのため、ドルと日本円では、ドルの方が買われてドル高円安になった。
ドル高円安は、輸入物価の上昇となるため、輸入品は2割以上も上がることになった。
これによって日本の物価は、わずかに上昇した。
ところが消費税率アップで消費が落ち込み、またデフレスパイラルに陥った。
そこで日銀が次に打った手が、「マイナス金利政策」(2016年1月末-)だ。
マイナス金利政策とは、銀行が日銀に預けているお金にマイナス金利を課す政策だ。
それまで銀行は、余分な資金を日銀の口座に預けていて、0.1%くらいの金利を受け取っていた。
たとえば1,000億円を日銀に預けていたら、毎年10億円の利子を受け取れたわけだ。
ところがこれを縮小し、一定金額以上の日銀預金に対しては0.1%の手数料(マイナス金利)を徴収すると言い出した。
マイナス金利政策によって、銀行はまた収益源を一つ失ったのだ。
さらに貸出金利も引き下げざるを得なくなって、収益率も低下した。
マイナス金利政策発表後、銀行株は急落したが、それも当然だ。
メガバンクの場合、大企業の海外ビジネスで手数料を稼いだりすることができるが、そう言うことができない地方銀行は、国債運用もできず、日銀預金もできず、収益が悪化した。
またメガバンクも、利益があるうちにと支店を統廃合したり、年配の銀行員中心に退職者を募ったりというリストラ計画を発表している。
急行の止まる駅前から銀行が撤退するなんて、信じられない光景を目の当たりにしている今日この頃だ。
まあそういうことだから、アベノミクス政策が撤回され、銀行保護政策が出るまでは、銀行株に良い話はあまりないだろうね。